愛車を暮らしの一部として身近に感じられるガレージハウスは、車好きにとってまさに夢の住まいです。しかし、その夢を実現するためには、デザインや間取りだけでなく、法律上のルールを正しく理解しておく必要があります。特に注意したいのが「内装制限」です。今回は、ガレージハウスを建てる際に知っておくべき内装制限と、それを踏まえた内装仕上げのポイントについて、プロの視点から詳しく解説します。
1. ガレージハウスは「内装制限」に注意

憧れのガレージハウスを計画する上で、避けては通れないのが建築基準法に定められた「内装制限」です。なぜガレージハウスにこのような制限が設けられているのでしょうか。
その理由は、ガソリンやオイルといった可燃物を扱う自動車を格納するガレージ部分が、法律上「自動車車庫」という特殊建築物に分類され、火災発生のリスクが高い場所と見なされるためです。万が一火災が発生した際に、炎が急速に燃え広がるのを防ぎ、安全に避難する時間を確保することが目的とされています。
具体的には、ガレージ部分の壁と天井の仕上げ材には、一定の防火性能を持つ「準不燃材料」以上のものを使用することが義務付けられています。木材をそのまま見せるような内装に憧れる方も多いかもしれませんが、一般的な木材は可燃材料にあたるため、そのままでは内装材として使用できません。
このルールは、ガレージが住宅と一体になっているビルトインガレージ(ガレージハウス)に適用されます。ただし、ガレージの規模や構造によっては緩和されるケースもありますが、安全性を確保し、法規を遵守するためにも、原則として「ガレージの壁と天井は準不燃材料で仕上げる」と覚えておきましょう。理想のガレージを実現するためには、まずこの大前提を理解し、設計段階から建築士や施工会社と入念に相談することが不可欠です。
2. ガレージハウスの内装仕上げのポイント

内装制限があるからといって、無機質で味気ない空間になってしまうわけではありません。ルールを守りながら、デザイン性や機能性を高める方法は数多く存在します。ここでは、理想のガレージ空間を創り上げるための内装仕上げのポイントを8つご紹介します。
2-1. 壁材の基本は「石膏ボード」
内装制限をクリアする最もスタンダードな壁材が「石膏ボード(プラスターボード)」です。コストパフォーマンスに優れ、施工しやすいため多くのガレージで採用されています。石膏ボードを下地として使用し、その上から塗装や防火認定を受けた壁紙(クロス)を貼ることで、好みの色や質感に仕上げることが可能です。シンプルながらも、色選び一つでガレージの雰囲気は大きく変わります。
2-2. デザイン性を高める壁材の選択肢
より個性的な空間を目指すなら、石膏ボード以外の選択肢も検討しましょう。例えば、工場のような武骨な雰囲気を演出できる「ケイカル板(珪酸カルシウム板)」や、金属的な質感が魅力の「ガルバリウム鋼板」も人気の準不燃材料です。また、憧れのOSB合板や有孔ボードを使いたい場合は、不燃・準不燃認定を受けた製品を選ぶか、下地として石膏ボードを施工した上で仕上げ材として使用する方法があります。
2-3. 床材は耐久性とメンテナンス性を重視
壁や天井と異なり、床材には法的な内装制限は基本的にありません。しかし、車の重量に耐え、オイルや泥汚れにも強い素材を選ぶことが重要です。最も一般的なのは、コンクリートを平らに均した「コンクリート金鏝(かなごて)仕上げ」です。さらに、防塵塗料やエポキシ塗料を塗ることで、掃除がしやすくなり、見た目も美しく仕上がります。磁器質タイルや長尺シートなども、デザイン性と機能性を両立できる選択肢です。
2-4. 天井も壁と同様に準不燃材料で
天井も壁と同様に、準不燃材料での仕上げが必須です。壁と同じく石膏ボードを貼り、塗装やクロスで仕上げるのが一般的です。天井に配線を通してダウンライトやスポットライトを埋め込むことで、空間全体をすっきりと見せることができます。あえて構造躯体を見せる「スケルトン天井」にしたい場合は、構造自体が不燃材であることや、必要な防火被覆が施されているかなどを確認する必要があります。
2-5. 安全性と雰囲気を両立する照明計画
ガレージの照明は、安全に作業するための「機能性」と、愛車を美しく照らし出す「演出性」の両面から計画しましょう。全体を明るく照らすベースライトに加え、愛車や作業スペースをピンポイントで照らすスポットライトを組み合わせるのがおすすめです。壁や天井にライティングレールを設置すれば、後から照明器具の位置や数を自由に変更できます。湿気や埃に強い、防湿・防塵タイプの器具を選ぶと安心です。
2-6. 快適なガレージ空間に不可欠な換気設備
ガレージ内は、排気ガスやガソリン、タイヤの匂いがこもりやすいため、換気設備の設置が建築基準法で義務付けられています。適切な換気計画は、有害物質を排出し、湿気によるカビや結露を防ぐために不可欠です。壁に設置する換気扇や、天井に埋め込むダクト式の換気システムなど、建物の構造や使い方に合わせて最適なものを選びましょう。
2-7. 機能的な収納スペースの確保
工具やカー用品、アウトドアグッズなど、ガレージには多くの物を収納します。計画段階で十分な収納スペースを確保しておくことが、すっきりとした空間を保つ秘訣です。壁面を有効活用できる棚やキャビネット、有孔ボードなどを設置し、「見せる収納」と「隠す収納」を使い分けることで、機能的かつおしゃれなガレージになります。
2-8. 居住スペースとの繋がりを意識したデザイン
ガレージハウスの醍醐味は、リビングなどから愛車を眺められることです。ガレージと居住スペースの間に大きなガラス窓を設置する際は、火災の延焼を防ぐための防火設備(網入りガラスや防火シャッターなど)が必要になります。内装の色味や素材感を居住スペースと統一することで、家全体に一体感が生まれ、ガレージが単なる車庫ではなく、もう一つの部屋として暮らしに溶け込みます。
3. まとめ

ガレージハウスを建てる際には、建築基準法で定められた「内装制限」を遵守する必要があります。特に、火災のリスクが高いガレージ部分の壁と天井には、「準不燃材料」以上の防火性能を持つ素材を使用することが基本です。
一見すると厳しい制約に感じられるかもしれませんが、ルールを守った上でデザイン性や機能性を追求する方法は豊富にあります。石膏ボードやケイカル板、ガルバリウム鋼板といった準不燃材料を効果的に使い、照明や収納を工夫することで、安全かつ自分だけの理想のガレージ空間を創り上げることは十分に可能です。
後悔のないガレージハウスづくりを実現するためには、これらの法的要件を正しく理解し、経験豊富な建築士や施工会社に相談することが最も確実な近道と言えるでしょう。